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東京地方裁判所 昭和40年(手ワ)3117号 判決 1966年10月25日

原告 高橋堅二

右訴訟代理人弁護士 梅沢秀次

被告 大日本競走馬生産株式会社

右訴訟代理人弁護士 朝山豊三

主文

一、被告は原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する昭和四一年三月九日以降完済までの年五分の割合による金員を支払え。

二、原告の第一次的請求(手形金の請求)を棄却する。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

四、この判決の第一項は、原告において金三〇万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

<全部省略>

理由

(第一次的請求について)

本件手形が訴外加藤淳の作成にかかるものであることは原告の自陳するところであり、被告も認めている事実であるが、同訴外人に被告会社の代表者を代理しその記名捺印を代行して本件手形を振出す権限があったとか、或いは被告会社が一般の第三者に対して同訴外人に、本件手形振出の代理権限を与えている旨を表示し、少くとも同人に被告会社の手形、小切手を振出す権限を授与していたとかの事実を認めるのに足りる証拠はないから、爾余の判断を加えるまでもなく、原告の第一次的請求は理由のないものである。

(第二次的請求について)

一、本件手形が訴外加藤淳の作成にかかるものであることは右のとおり当事者間に争いがなく、同人がその当時被告会社の被用者であったことも被告の認めるところである。

二、そこで、右以外の要件事実の存否について判断する。

成立に争いのない<省略>の結果を総合すると、

(一)  訴外加藤淳は、被告会社の総務部長として営業面及び一般事務を担当し、他方被告会社と代表者及び事務所を同じくする訴外小河内観光開発株式会社の取締役になっていて、その運営資金及び手形の決済資金調達の任に当り、又右訴外会社及び稀にしかないことであったが被告会社振出の手形の作成などもなし、その関係で手形要件の記載に必要なゴム判を保管していたこと。

(二)  昭和三九年一〇月頃、訴外加藤淳は、右訴外会社が経営不振で当時満期の到来する同会社振出の手形を不渡にすれば倒産のおそれが大であったことから、この決済資金調達のため被告会社代表者の諒解を得ないでほしいままに被告会社振出名義の手形を作成し、これを右訴外会社の前の代表者であった訴外長棟至元に交付してその値価金八九万円位を右の決済資金に振向けたこと。

(三)  しかし、右の被告会社振出名義の手形は満期に決済されず、訴外長棟至元の諒承の下に書替がなされ、通算して三通目のものが本件手形となるのであるが、右訴外人は、訴外加藤淳に要求して受取人兼第一裏書人としてこれに保証のための白地式裏書をさせ、昭和四〇年四月下旬頃これを原告に交付譲渡したこと及びその際原告は、訴外長棟至元に対し本件手形金額に相応する金一〇〇万円を融通したこと。

以上の各事実を認めることができ、これと前記争いのない事実とからすれば、訴外加藤淳のなした本件手形の振出は、被告会社振出名義の偽造であって、その結果原告をしてその額面金額に相応する金一〇〇万円を出捐させて原告の財産権を侵害した不法行為であるというべきであるが、それと同時に右振出行為を外形的に観察すると、あたかも被告会社の被用者である右訴外人の職務の範囲内に属する行為であると見るのが相当である。従って、被告は原告に対し、被告会社の被用者である右訴外人が被告会社の事業の執行につき原告に加えた損害を賠償すべき義務があるものといわなければならない。

(結論)

よって、原告の第一次的請求は棄却すべきものであるが、被告に対し使用者の損害賠償責任として本件手形金に相応する金一〇〇万円及びこれに対する原告が現実に損害を蒙った日の後である本件第四回口頭弁論の行なわれた昭和四一年三月九日の翌日以降完済までの民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の第二次的請求を正当として認容する<以下省略>。

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